ミ ズ イ モ

 母島で偶然、ある島民からミズイモがある、と聞いた。昔は母親が畑で作っていたが今はあまり見かけない、最近ある人からミズイモの味噌汁をいただいた、ミズイモはおいしいよ、という。
 お店や宿の人など新住民の人に聞くと、「ミズイモ?ずいぶんマニアックなことを聞きますね」、「なんか地元のおじいさんが作っているらしいんです。でも作っている場所とかは秘密で、食べるときも選ばれた人しか呼んでもらえないらしいんですよ。農協とかにも出てきません。知っているらしいおじいさんの顔は何人かうかびますが、私も呼ばれたことがないんです」という。
 秘密の作物なのだろうか?

 だめもとであたってみたところ、茨城の約1反の畑で8年雑穀を作っているという話が功を奏したのか、ミズイモが自生しているところを案内するよ、というおじいさんが現れた。彼も戦前からの古い島民で、よそから持ってきたのかもともと自生していたのかわからないが、ミズイモは子供の頃からあった、昔はさかんに作っていたという。今は山の中で作っている。というか山の中でしか作れない。その理由はというと:
 昭和17年に営林署が何を考えたんだかアカギを植えた、これがはびこってしまった。アカギは山の上のほうの土の少ないところには生えない、川のほとりなど土のあるところに生える。水をよく吸い、おかげで日照の年には沢や川が涸れるようになった、そのせいでミズイモも減ってしまった。アカギを切ってみると、厚い皮の内側に水をたっぷりと含んでいる。
 アカギを伐採して父島に持ってゆき、ラワン材のように港に置いてもらえないかと言ったが断られた、製材しようにもこれが堅くてとても無理、輸送費だのお金がかかっただけ、山が青々として見えるのはみなアカギと内地桑のせい、両方とも外来種、ひどいもんだよ、子供の頃は営林署の庭で内地桑の実をおいしい、と食べた、そのときくらいしか見なかったのに、今はいたるところにある。

 ミズイモは水のよいところにでき、母島で聞いた栽培地、自生地もそうしたところだった(いちおう、地名は伏せておく)。父島では、訪問した先の畑をやっている人は土地の水周りのよい一角に必ず植えており、すぐに見せてくれた。ただ、やはり農協に出すほどの量はなく、自家用と周囲で消費している感じだった。(下の写真は乾いた土地に見えるが、いずれもグジュグジュしたところで、ミズイモはそうした土地の水を吸うからいい、という人もいた)
 父島にて、農家でない人は、ミズイモは山から取ってくる、昔は作っていたらしいが今は作っていない、と言っていた。

 ところで、ミズイモはおいしいのか?
 これはズバリ、確かにおいしい!はっきり言って内地の里芋よりもずっとおいしいのだ。母島の自生種と、父島の畑からいただいたものを家で味噌汁にしてみたが、家族全員、これはおいしい、里芋よりずっとうまい、と言った。ほのかに甘みのある里芋、と言えばよいだろうか。里芋はいくつか食べるとすぐ飽きがくるが、ミズイモはほんのりと甘くいくらでも食べられる。これは量産できれば特産になると思う。

 母島の人の話では、昔はすりこんでねっとりとさせ(ハワイのポイに似ている)、それを味噌汁に入れたりして食べていたそうで、今は普通に切って味噌汁にする。茎(ズイキ)も皮をむいて食べられる、味噌汁に一緒に入れる。

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 ところでミズイモには2種類ある。このため、自生しているものを探すときは注意が必要。母島の自生地のすぐ近くにも外見はほぼそっくりのミズイモが自生しているが、これは食用のミズイモとは別物。うっかり食べると一週間くらい口の中がえぐくなる。父島でも同様。

 ミズイモはワサビ田のように、水の流れる水田で育つ。溜め水だとおいしくならない、という。ミズイモには小芋はできない。根の地下茎で増えてゆく。大きくなると腰丈ほどになる。
 作ってみたら、と何本かもらったが、関東では小笠原のように冬場も土地に植えっぱなしにするわけにはゆかない。父島の農家の人は、冬場は掘り出して里芋のように貯蔵し、春に植えれば大丈夫だ、と言っていたが?

 ちなみに、小笠原では里芋は11月に植えて6,7月に収穫だと言っていた。年内に地上10センチくらいにするという。関東では3月か4月に植えて10月か11月に掘り出すので、逆転している。
 また、ある父島の農家の人は、かつて島では米の二毛作ができたが、それよりも金になる、というきぬかつぎ(商品名、品種名ではない)という里芋があったそうで、それを復活させようと植えてみている、と言ってた。

 ところで、ミズイモはサトイモの系統で、タロイモに近い。日本に稲作が伝わる以前、雑穀と根菜類を主食とした古い文化があったという研究が進んでいる。里芋などサトイモ科やヤマノイモ科に関する儀礼(十五夜に里芋を備えたり、芋で正月を祝う)は、こうした古い文化の名残だという。里芋について詳しくはこちら



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