南   ア   ル   プ   ス   2
( 赤   石   山   脈 )

 山で会う中高年男性は薀蓄好きが多い。日本アルプスを歩いていないとばかにしたりするので、奥多摩里山がメインでも南北アルプス縦走する体力くらいはあるよ、ということで、とりあえず歩いておくことにした。

 南アルプス縦走では南下か北上か、最後まで迷った。当初は、たまたま目にしたブログや山岳雑誌の記録が北上ものが多かったため、北上するつもりで予定をたてていた。しかし今年は猛暑、連日35度を超える日々が続く。畑薙ダムあたりの標高は900〜1000m程度、北上コースだと稜線までの登りが酷暑の中と予想される。暑さに弱いので、これはかなり辛い。野呂川出会なら1800m程度、こちらのが涼しそう、と急遽南下コースに変更、宿泊予定地も組み直し。
 今回仙丈ヶ岳は入っていない。もともと、足慣らしとして先に黒戸尾根から甲斐駒ケ岳、仙丈ヶ岳を経て仙塩尾根を下りるコースを歩く予定だった。それが休みをとれずにいるうち、梅雨明けの気候安定期がきてしまった。このチャンスを逃したくないので、先に長期縦走を片付けることとし、甲斐駒仙丈は秋にでも歩く予定。



日本アルプス目次:
   南アルプス縦走:前半野呂川−塩見岳−荒川前岳  後半赤石岳−聖岳−茶臼岳−畑薙
       北岳−間ノ岳−農鳥岳(1993)  早川尾根
       白峰南嶺 仙丈ヶ岳(仙塩尾根) 甲斐駒ケ岳(黒戸尾根)

   北アルプス縦走:後立山 扇沢−裏銀座 槍穂大キレット 剣岳 十字峡 栂海新道
       東西鎌尾根 焼岳 合戦尾根−徳本峠 雲ノ平 笠ヶ岳 西穂奥穂 北穂奥穂
   中央アルプス:木曽駒 越百−安平路 空木岳−仙涯嶺



南アルプス縦走  2013年8月中旬

野呂川出会−熊ノ平小屋 熊ノ平小屋−三伏峠小屋 三伏峠小屋−荒川小屋 荒川小屋−聖平小屋 聖平小屋−畑薙第一ダム

1日目 コース記録:野呂川出会7:35−9:45両俣小屋9:55−10:55野呂川越(昼)11:05−13:30(休憩)13:40−三峰岳14:30−三国平15:20−熊ノ平小屋16:15

 甲府朝4時20分発、広河原7時半発のバスに乗るため、最終列車で甲府まで行く。どうせ4時間程度なので駅前のベンチで一休み。同様の御仁も何人もいる。駅前は一晩中人通りが絶えず、治安上不安な感じはない。4時頃になるとどこに泊まっていたのか大勢登山スタイルの人が集まってきて並び始めた。お盆休みということもあって、この日バスは3台で出発。



左上:野呂川出会 ここで下りる人は少なく、ほとんどが北沢峠までゆく
右上:仙丈ヶ岳から延びる仙塩尾根を望む  左下:野呂川の峡谷

 出会から林道を歩き始めるが、まだ8時前高度1800mというのに、日陰のないカンカン照りですでに暑い。汗をかくので水を飲む、するとまた汗をかくの悪循環、林道のちょっとした登りにも疲れを感じ、これで南ア縦走できるのか、とモチベーション下がりっぱなし。
 両俣小屋に到着すると、10時近いというのにまだテントが何張も張られている。1日のんびり滞在する人も多いようで、羨ましい。緑陰の中に立ついい感じの小屋だ。小屋の人から、北沢峠に熊が出る、最近野呂川出会にも出たから熊鈴つけたほうがいい、と言われる。なお、熊ノ平方向へ行く人は12時を過ぎると止めていると言っていた(コースタイムからみても当然だろう)。
 小屋からの登りもきつい。やたら水を飲み、これで畑薙ダムまで行けるかなあ、日程切り上げて2,3日で帰ろうか、でも留守の間羽根を伸ばす予定の家族が嫌がりそう、ならゆっくり歩いて三伏峠かほかのエスケープルートから下りるか、などなど考える。

下:野呂川越で仙塩尾根に出たところ
 登りはずっと樹林帯、尾根に出てからも樹林帯


 野呂川越に、西の谷へ下りようとしているおじさん二人連れがいた。道あるんですか、と聞くとないという。瀬戸へ出たい、というようなことを言っていた。バリエーションルートですかと聞くが、それですらないらしい。野呂川越の少し北を偵察に行った一人が、そちらから下りられると言い、じゃあ、と二人で北へ向かって行った。まあ、気をつけて。



左上:北岳を望む  右上:樹林帯の尾根道
左下:やがてハイマツ地帯に、こういう感じの岩っぽい小ピークをいくつか越える
右下:尾根道 ガスってきた   森林限界を超えると尾根に風も吹き、さらにガスってきたので暑さは一段落





 一般ルートをさくさく進む。この尾根は倒木がひどい、という記録も読んだが、2013年現在、そういうことはなかった。翌日も登山道の倒木処理を目にし、整備が進んでいると感じる。

 単独男性二人、単独の若い女性一人とすれ違うが、やはり北アルプスに比べ人は少ない。女性が「今日始めて人を見ました」と言うので、単独男性二人とすれ違ったと言うと「南下するほうが少ないんですかね?全然すれ違わないんですよ」と言う。

左上:三峰岳頂上 間ノ岳からピストンで来たという、身軽で速そうな二人連れがいた。
右上:北岳の尾根を望む
左:三国平 奥の尾根中央の点が熊ノ平小屋
 小屋にて:明日できれば小河内岳避難小屋まで行き、百間洞小屋、茶臼小屋に泊まってダムへ下りる予定だと話している人がいた。どこそこの小屋はカツ丼だかがうまいなどなど話している。彼らは翌朝3時半に出発していった。
 また別の学生らしき若者は、トレラン姿の男性にトランスジャパンをテレビで見て感動した、一度やってみたいと話している。でも山道走るのは大変そうですねという若者に、「みんな走ってないよ。登りは走らない。走るのは下りか平らなところだけ」「そうなんですか」「トップクラスは違うけどね、普通は登りは走らない。マラソンは好き?」「好きです、やってます」と若者、「トレランのタイムあげたいならロードやらないとだめだよ」と話していた。

2日目 コース記録:熊ノ平小屋4:30−北荒川岳7:05−雪投沢源頭8:00−8:30北俣岳分岐8:35−9:10塩見岳9:20−10:10塩見小屋10:30−10:50(昼)11:10−本谷岳12:20−三伏峠小屋13:20


左:農鳥岳の尾根を望む

左下:倒木処理された尾根道
ここまでチェーンソー担いで整備してくれている人がいる

下:小岩峰あたり 尾根道は続く






上:北荒川岳山頂 左は南方向、塩見岳を望む  右は北方向、北岳間ノ岳を振り返る
左下:塩見岳へ向かう尾根道  右下:西方向を望む

頂上に男性が一人のんびり腰を下ろしており、「すごい景色ですね」と感動した面持ちで声をかけてきた。





左上:しばらく進み、北荒川岳を振り返ったところ 南斜面がえぐれている
右上、左下:北荒川岳から下ったところに、かつてのテント場と小屋跡がある(今は幕営禁止)。このあたりがマルバタケブキの群落地で良い景色。マルバタケブキの群落は熊ノ平小屋や三伏峠、聖平小屋手前などあちこちで見かけた。
右下:雪投沢源頭 水場があると思ったが、だいぶ下るようだ





左上:北俣岳分岐   右上:今来た尾根道と北岳間ノ岳方向を振り返ったところ
左下:これから向かう塩見岳 写真ではわかりにくいが、頂上に大勢人がいる
右下:蟻の戸渡りのような尾根道





左上:塩見岳東峰   右上:西峰
左下:中央の尾根がこれから下る本谷山などの尾根道    右下:塩見岳の西は急な岩場を下る





左上:尾根道はやがてハイマツ帯から樹林帯へ   右上:塩見岳を振り返る
 塩見岳の西で大勢の登山客とすれ違う。塩見小屋に泊まったり、三伏峠からピストンしているらしい。北アルプスでよく見かける中高年グループも何組かいた。
 樹林帯に入った頃、朝あれだけ晴天だったのがすっかり雲に覆われ、小雨がぱらつきだした。しかし雨具を出すほどでもなくさくさく下りる。最後にすれ違った一団は、おそろいの上下ゴアを身につけ、猛スピードで塩見小屋をめざして登っていった。その理由を後で知ることになる。

 小屋周辺はかなり濡れており、まともに降ったようだ。雨雲にあたらずラッキーだったなと思うが、小屋で受付をしているとき管理人が「この後、もうひと雨来ると思います」と言った。
 ツェルトを張っていると雨がぱらつきだした。これはやばい、と急いですべて張り終えたとたん、大降りになった。いつも目隠し兼雨よけの簡易防水シートをツェルトの上にかぶせるのだが、その余裕はなかった。仕方なくまだほどいていないザックの上に防水シートをかけ、染み出る雨を不織布で拭き取りながら雨がやむのを待つ。どうせすぐ止むだろうと思ったが、予想に反して雨はますます激しく、雷まで鳴り出した。音も光も間近、あちこち落ちまくっている轟音が鳴り響く。塩見岳へ向かっていた人たち、大丈夫だろうか、あのベテラン勢と思われる一団はそれであんなに急いでいたのかと思う。2,30分で止むと思ったのが1時間たってもまだ止まず、さらに薄いツェルトを通してバチバチ体に痛いほど当るようになった。こんな大雨初めて、やはり高山はすごいなあ、と思いつつさらに30分、ようやく小降りになり、止んだ。外に出てみると、周りが真っ白。あれ?雪?とよく見ると雹だった。なるほど、さっき痛かったのはこれか、よくツェルトが破けなかったと思う。それにしても、山小屋の人、天気をあてたのですごい。
 近くのツェルト派の男性も出てきて、ほかのツェルトは崩壊してみな山小屋へ避難したと教えてくれる。崩壊?そんな大風吹いたっけ?北アルプスでは梅雨末期の暴風雨や稜線の強風がすごかったが、それでもツェルトはもちこたえていた(こちら:唐松山荘あたり)。今回雨はすごかったが、大風が吹いた記憶はないので不思議な気がした。張り方が甘かったのでは、と思う。ちゃんとテンションかければそう簡単につぶれることはない。台風や爆弾低気圧クラスはともかく、ツェルトはかなり風に強いと思う。
 その後聞いた話では、一つがつぶれて、もう一つはストックが折れたという。ストックが折れるほどの大風だったかといぶかると、カーボンで弱かったらしいとのこと。床なし三角形型テントの人もいたが、きちんと張ったので持ちこたえたとのこと、非自立式も正しく張れば大丈夫だ。ただツェルトは居住性が悪い(結露がすごい、結露しにくい良い布はやはり重くなる)。
 軽さ優先でツェルトなので、基本ツェルト泊だが、疲れたり雨なら山小屋泊にしている(その割に、唐松岳でも三伏峠でも、なぜか大雨時にツェルト泊してしまう判断ミスが・・・)。北アなど山小屋が混んで一畳に3人、なんてときにはツェルトがあると快適だ。


3日目 コース記録:三伏峠小屋5:30−小河内岳7:15−板屋岳9:05−9:40高山裏避難小屋9:50−10:15水場10:30−荒川前岳12:15−荒川小屋13:20



左上:テント場の朝   右上:東の蝙蝠岳の尾根   下:これから向かう尾根
尾根道をゆく 朝は天気が良い





左上:小河内岳を望む 尾根上に見える三角屋根が小河内避難小屋   右上:塩見岳を振り返る
左下:これから向かう尾根   右下:西方向 遠くに見えるのが中央アルプス(だと思う)





左上:中央アルプス拡大 熊ノ平あたりから赤石岳あたりまでずっと、この山脈が西に見えていた 
小河内岳の先で樹林帯に入る。
右上:板屋岳 林の中の頂上    左下:右(西)が切れ込んだ尾根道  右下:歩いてきた尾根を振り返る(西斜面が崩壊)





左上:高山裏避難小屋へ下る道  右上:樹上を見上げたところ
左下:高山裏避難小屋 大勢休んでいた。小屋の水場は往復30分かかるそうで、小屋から南へ30分ほど行った登山道脇に良い水が出ているため、南下する人はそこで水を手に入れたほうがよい、また荒川岳から高山裏避難小屋へ向かう人も、そこで水を汲んでおいたほうがよいそうだ。右下:水場





 高山裏避難小屋でいったん2400mあたりまで下りた後、3068mまでひたすら登り返す。樹林帯をぬけ、いよいよ南下コースの難所という(暑くて疲れるという意味)、カールの中の荒川前岳への登りが始まる。昨日は10時頃から曇ってきたので今日もそれを望むが、残念ながら炎天下での登り開始となった(涙)。
 ただ、さきほどの水場で、汗になったシャツを水洗いしてあった。それを着たらどうだろう、とビショビショのシャツを着るとなかなか快適。汗は気化熱で体を冷やすためにかくものだから、シャツが濡れていればその水が気化するため、汗をほとんどかかずに涼しく保てる。
 今朝からずっと追いつ抜かれつしてきた若者がいた。その彼が、「心が折れました」と言って斜面の途中に座り込んでいる。水でぬらしたシャツのおかげで快適だ、汗をかくと水を飲む、水を飲みすぎると疲れるでしょ、と言うと「ガブガブ飲んでしまった」という。昔運動部で水を飲むなと言ったのはこれがあると思う。もちろん、現在の常識のように水分が失われたら補給すべきなのだが、バスケやってた頃、部活の後(特に夜)あまり水を飲みすぎると翌朝体がだるくなった。その経験上、あまり飲みすぎないようにはしている。

上:カールの様子。しだいに曇ってきた。当初の予定ではこの日、赤石岳避難小屋に泊まることにしていた。しかし昨日の雷雨は2時前にきた。もう11時、しかもカール下の道標には荒川小屋まで180分とある。本当か?(ガイド本のコースタイムより大分長い)。もしこれが本当なら、2時に荒川小屋ぎりぎりとなる。場合によっては、中岳避難小屋泊も考えないと、とどんどんハードルが下がる。
左下:尾根に出た頃、曇ってきた。服はすでにほとんど乾いていたが、それでも曇りで稜線に風が吹くと、肌寒く感じる。濡れ服作戦は一歩間違うと低体温症のおそれがある。
右下:中岳方向を望む 雷雨が怖いので寄り道はせずさくさく進む。





左上:荒川前岳頂上 頂上にいた人は「今日は雷は大丈夫でしょう。昨日より大気が安定している」とのんびりしていた。確かにこの日は遠くで雷鳴は聞こえたものの、結局雷雨はなかった。みな天気をあてるのですごい。私も観天気できれば、無駄に焦らずにすむのだが・・・
右上:荒川小屋方向への道 とにかく急ぎ足、今日は疲れていようがいまいが荒川小屋止まりだ
左下:鹿避け柵をあけたり閉めたりしながら2700mあたりまで再び下る。目の前の山が赤石岳。もうこの時間登り返す体力はない・・・。明日早朝涼しいうちに勝負だ。
右下:荒川小屋 新しいきれいな小屋



小屋にて:昨日の雷雨が話題になっていた。まだ山小屋にたどりついていなかった人も多く、「すごかった、上下セパレートタイプの合羽着てても、結局びしょぬれになった」という。ザックの中もすべて濡れてカメラをだめにした、北アルプスは山小屋に必ず乾燥室があるが、南アルプスにはないから自力で乾かさないといけない、などなど。
 また別のおじさんグループは、「北アルプスと南アルプスのコースタイムは基準が違うんじゃないか」と話していた。北はコースタイムどおりにゆくが、南はきつい、と言う。そうかなあ、私はどちらも似た割合の短縮度だが。



hidari.gif 北岳農鳥岳聖岳茶臼岳 migi.gif


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