南  ア  ル  プ  ス  (赤  石  山  脈)


 普段、里山や標高1500m程度の近郊低山の尾根歩きしかしないが、誘われていきなり標高3000mの南アルプスへ行った(正式名称は赤石山脈)。しかし、この縦走も完全な尾根道歩き。個人的に、山歩きの基本は尾根歩きだと思っている。山仕事をしている人も、「沢を行くと最後急登になるし岩や崖で登れないこともあったりするから、尾根から行こう」とよく言う。
 ”登山”となると頂上に到達することが目的で、ザイルだのピッケルだの装備も”おおごと”感が強い。しかし、かつて山道を歩いて移動していた人々は生活の中で峠を越え尾根をたどっていたわけで、若い女性でも信州から福島まで歩いてお嫁に行った、尾根道をたどれば早かったと聞き取りにある。木地屋集団も尾根を移動し(雪崩の危険を避ける意味もある)、巡国めぐりの年には尾根ごとに案内が立ったという。ナガランドなどの山岳民族も今でも尾根をつたい、村も山上にある。
 移動が目的の山歩きでは、剣岳のような岩山は登らなかっただろうが、”おおごと”でない山歩きもありだと思うし、もっと普通に歩いていいと思う。もちろん、山を侮ってはいけないが。

日本アルプス目次:
   南アルプス縦走:前半野呂川−塩見岳−荒川前岳  後半赤石岳−聖岳−茶臼岳−畑薙
       北岳−間ノ岳−農鳥岳(1993)  早川尾根
       白峰南嶺 仙丈ヶ岳(仙塩尾根) 甲斐駒ケ岳(黒戸尾根)

   北アルプス縦走:後立山 扇沢−裏銀座 槍穂大キレット 剣岳 十字峡 栂海新道
       東西鎌尾根 焼岳 合戦尾根−徳本峠 雲ノ平 笠ヶ岳 西穂奥穂 北穂奥穂
   中央アルプス:木曽駒 越百−安平路 空木岳−仙涯嶺



北岳−間ノ岳−農鳥岳

1993年9月10−12
 つくばに勤める友人が、職場のドイツ人二人と南アルプスに行くんだけど、一緒に行かない?と急に声をかけてきた。奥多摩檜原高尾はときどき歩いていたが、本格的登山なんてしたこともない。ドイツ人らは本場のアルプスに何度も登っているベテランだから、大丈夫だよという。

 登山グッズは持っていないので、寝袋と銀マットを知人から借り、リュックは縦長ならぬサイドポケットの大きい横長のインド放浪で使ったしろものを代用、防水加工とか一切無し。服も同様、しかも靴はバッシュー。
 ただ父がかつてワンゲル部だったので、雨が降った場合に備え、リュックの中はすべて大きいビニールに入れておけ、水など重いものはリュックの底ではなく、服などを入れた上に乗せろ(重い物は下でなく上)、いざというとき新聞紙を体に巻くと保温になるのであると便利、などなどアドバイスしてくれた。これは非常に有効だった。

注: ただし、新聞の登山情報記事に、重い物は下へ、上だとバランスを崩して滑落しやすくなる、とあった。確かにテントや水などかなり重い物だとそうなると思う。一方、重い物は下にぶら下げるより、肩近くに背負ったほうが担ぐとき負担が少ない(軽く感じる)というのも事実。何を担ぐか(日帰りハイキングかテント寝袋背負った登山か)、どういう山かによって変えてもいいかもしれない。

 南アルプスは森林限界が高い。上のほうまで樹林帯が続き、高山植物の世界はかなり上まで行かないと見られない。北アルプスは森林限界が低く、普段見られない高山植物の草原の中を長く歩くことができる。だから北は人気があり、南はあまり人気がないという。ただ、大樺沢右俣コースなどは急登が少なく、気候のよい時期なら女性や年配者にも適したコースだと聞いた。

 このときは広河原から登った。途中、雨に降られる。




 1日目は北岳肩ノ小屋に泊まった。ドイツ人の一人はポンチョ型の合羽を被っていたが、中に水が入ってしまい、本人もリュックの中身も濡れてしまったという。夕方になると気温がかなり低下し、寒い寒いと具合が悪そうで夜はぐったりしていた。明朝の様子を見て予定を決めよう、ということになる。元気なほうのドイツ人が、そのリュックで荷物は大丈夫だったか聞いてきたので、もともとすべてビニールに入れてあったのでまったく濡れていない、と自慢したら感心していた。

山小屋にて






夜明けと雲海


朝、ドイツ人の体調は回復していた。本人は軽い高山病だったのでは、と言っていたが、やはり濡れたのが原因と思う(日本の山は雨が多い)。荷物の中身、特に衣服をストーブの周りで一晩乾かしたが、完全には乾かなかった、と言っていた。でも大丈夫だというので早朝に出発。
写真上下:北岳頂上への道 ここからずっと尾根道だ





北岳頂上  北岳は標高3192m、富士山に次いで日本で二番目に高い山 さすがに寒くダウンを着た



   間ノ岳への道




 間ノ岳頂上 3189m
 左上写真の右端に見える赤い屋根の小屋が、農鳥小屋だったと思う(随分前なので記憶が定かでないが・・・)




 2日目は早目に農鳥小屋に着き、明日に備えてゆっくり休む。山小屋で働くバイトの女の子が、小屋で飼っている犬の散歩だ、と鎖につないで尾根道を遠くまで出かけていった。犬はいつもつないで散歩させている、雷鳥などもいるので、と言っていた。

 左上:このとき、ブロッケン現象を見ることができた。急に霧が出たと思ったら、回りの人が「ブロッケン現象が見られるかもしれない」ときょろきょろしだした。北岳周辺では運がいいと午後ときどき見られるという。太陽を背にして立つと霧に自分の姿が映り、頭の中心に輪ができる現象で、自分の影なので、手を上げると霧の中の影も手を上げる。他人の影は見られず、自分の影しか見えない。
 ドイツ人たちも「話には聞いていたが、初めて見た!ヨーロッパアルプスでもまだ見たことがなかった」「昔の人はこれを見て、オー、ホーリーマザー、ホーリークライストと拝んだだろう」と興奮していた。

 右上:朝、雲海の奥に富士山が見える 最終日は奈良田まで7時間半、行程が長いので早朝出発


 右上:西農鳥岳頂上3051m  写真はないが農鳥岳3026mを経て大門沢への道を下りる
 右下の雲海の奥にも富士山が見える





 尾根道と別れ、やがて樹林帯に入り延々下る
 奈良田の集落に出て終了

 以前、民族文化映像研究所の奈良田に関するドキュメンタリー映像を見たことがあるが、奈良田はかつて焼畑をしており、曲げわっぱを作っていたことで知られているという

 下りで、抜きつ抜かれつしていた中年男性二人組がいた。いかにも昔ワンゲルをやっていた学生時代からの友人同士、という感じだった。途中で、一人が具合悪そうにして二人で休んでいた。どうしたのかな、と思いつつ、でも声はかけずに通り過ぎた。その後友人らと休んでいると、その二人組がやってきた。そして「友達が捻挫したんですけど、湿布か何か持っていないですか?」と一人が聞きに来た。バスケで捻挫癖がついているため、山歩きではいつも湿布と足首サポーターを持ち歩いている。そこで、それを渡した。捻挫は最初すぐ冷やせばその後かなり楽になる。
 その後、また途中でその二人組に会った。にこにこ歩いており、「さっきは本当にありがとう、湿布を貼ったら痛くなくなりました。もっと早く声かければよかった」と言う。「こっちも早く気づいて声かければよかったですね。すぐに冷やせばそう痛くないんですよね」と言った。友人は、「あの二人、本当に仲良さそうだね。学生時代の親友、て感じでなんかいいね」と言っていた。

 南アルプス縦走は、初日雨が降った以外は天候もよく、さほどきつかった記憶はない。岩や石がごろごろしている箇所もあったが、尾根にでてしまえばさほど高低差もなく、いつもと違う高山の風景を楽しみつつ歩くことができた。

 いま、南アルプスは人気があるのかどうか知らないが、天候さえよければ素人でもとっつきやすく、お奨めのコースだと思う。



hidari.gif 八ヶ岳塩見/荒川/赤石岳 migi.gif


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