南   ア   ル   プ   ス   3
( 赤   石   山   脈 )

日本アルプス目次:
   南アルプス縦走:前半野呂川−塩見岳−荒川前岳  後半赤石岳−聖岳−茶臼岳−畑薙
       北岳−間ノ岳−農鳥岳(1993)  早川尾根
       白峰南嶺 仙丈ヶ岳(仙塩尾根) 甲斐駒ケ岳(黒戸尾根)

   北アルプス縦走:後立山 扇沢−裏銀座 槍穂大キレット 剣岳 十字峡 栂海新道
       東西鎌尾根 焼岳 合戦尾根−徳本峠 雲ノ平 笠ヶ岳 西穂奥穂 北穂奥穂
   中央アルプス:木曽駒 越百−安平路 空木岳−仙涯嶺



南アルプス縦走 後半  2013年8月中旬

野呂川出会−熊ノ平小屋 熊ノ平小屋−三伏小屋 三伏小屋−荒川小屋 荒川小屋−聖平小屋 聖平小屋−畑薙第一ダム

4日目 コース記録:荒川小屋4:35−5:05大聖寺平5:10−6:35赤石岳6:50−8:20百間洞小屋8:40−10:00(休憩)10:15−小兎岳10:35−兎岳11:10−12:55聖岳13:00−13:30(昼)13:40−聖平小屋14:20

 昨日予定より一つ手前で泊まった分、今日できれば4日目の宿泊予定地聖平小屋まで歩きたい。昨晩、若者たちも明日は聖平小屋まで歩くと話していたので、不可能ではないだろう。ただ、雷雨など何があるかわからない。1日予備日を設けてあるので、無理はせず場合によっては兎岳避難小屋泊もありとすることにした。

 とりあえず、早朝日の昇らないうちに、赤石岳までの400mの登りをこなしてしまおう、とヘッ電つけて4時半に出発。左下:東の富士山   右下:大聖寺平へのトラバース





左上:大聖寺平から西を望む(中央アルプス?)  右上:赤石岳への尾根道
 小屋を先に出た夫婦連れが、大聖寺平で休んでいた。ここから大鹿村大河原方向へ下りるという。大河原への沢下りは難易度高いと聞くので、経験豊富な人たちだろう。もともと光岳へ行きたかったが一般車両は8時半まで入れないので赤石岳に変えたそうだ。「茶臼岳まで縦走するなら光岳も行けばいいのに」と言うので、「いや、蛭がいると聞くから光岳以南へは絶対行かない」というと、ご主人「蛭くらい大丈夫だよ。日本の蛭は小さい」奥さん「確かに蛭はいる。蛭は気持ち悪いわよね」「昼下がりのジョニーが効く。あれふりかけて行けばいい」「蛭は鈴鹿にもいっぱいいるのよ」鈴鹿、関西から来ているのか。そういえば北アルプスの山小屋でも関西の人が多かった。今回の山小屋でも関西弁をよく聞いたので、南北アルプスは関西人が多いのかもしれない。

左下:東の富士山   右下:小赤石岳 奥の台形の山が赤石岳で稜線に避難小屋がある



 早朝涼しい中さくさく登る。今回、歩きながら、なぜか動物番組「ダーウィンがきた」の主題歌「スマイルスマイル」を自然と口ずさむことが多かった。”スマイル、スマイル、だーいじょうぶー”と歌っていると心が落ち着く。「アルプス一万尺」も自然と口をついで出る曲の一つで、歌のリズムにあわせて足を運ぶ。



左上:赤石岳    右上:赤石岳の赤い石
 登りを早朝にこなす作戦大成功、楽々登ることができた。まだ朝食を食べていなかったので、山頂から少し降りた窪地で休む。ふだんはご飯や麺類で食事を作るが、この朝は時間短縮もあってプロテインパウダーとスポーツ飲料の素を水に溶かして飲み、スーパーで売っている水を入れるだけのマッシュポテトの素で朝食にする。スポーツドリンクはけっこうおいしい。疲れや暑さで食欲のないときなど、これならとりあえず栄養補給になる。
左下:これから向かう尾根 中央の丸い尾根が馬の背
右下:赤石岳から下ってきたトラバース道を振り返る





左上:北西 大鹿村方向    右上:南 これから向かう兎岳から聖岳の尾根
左下:赤石岳を振り返る  右下:百間平





左上:この谷に百間洞小屋がある 新しいきれいな小屋だった  右上:小屋からは樹林帯を登る。
 小屋の鞍部2600mまで下った後、再び3000mまで登り返す。北アルプスは2700〜2900m前後の稜線をさほどアップダウンなく歩けるのだが、南はこうした大下り大登りの繰り返しばかりだ。

左下:歩いてきた尾根を振り返る。左奥が荒川岳、右奥が赤石岳。尾根は荒川岳から南北、赤石岳から東西、百間洞小屋の先から再び南北に曲がっている。さらにこの先、兎岳で東西、聖岳からまた南北に曲がるので、ちょうど百間洞兎岳あたりが逆向きコの字型に突き出た形になる
右下:東 富士山





左上:これから向かう中盛丸山   右上:赤石岳
中盛丸山頂上より  左下:南方向  右下:南西方向  山肌に通る林道の下が崖崩れしているようすがよくわかる





これから向かう小兎岳(左上)と頂上(右上)    これから向かう兎岳(左下)と頂上(右下)
このあたり、炎天下の登りだったが、なぜかほとんど水を飲まずにたんたんと登ることができた。山歩きに体が慣れてきたのだろうか。





兎岳頂上の風景  左上:赤石岳方向  右上:聖岳方向  下:東方向だったかなあ?
山の名前わからないのですんません。途中会った人に聞いても、結構みな「山がたくさん見えすぎて、なんだかよくわからないですよね」などと言う。山岳部や山岳会経験のある年配者なら詳しいと思うが、南は体力的にきついせいか若者か若めの中年が多く、しかも単独、部活や会所属でなく山にあまり詳しくないままネットで調べ体力まかせに歩いている感じの人が多い(自分もそうと言えばそうだが)。





左上:兎岳から細い尾根道を2600mあたりまで下る
右上:聖岳山頂近くは再びカンカン照りの中ハイマツ帯を登る。ここはちょっときつかった。



上下:聖岳山頂とその風景





右上:聖岳から聖平小屋への下り尾根
小屋と聖岳の間は大勢人が歩いていた
小屋泊で聖岳ピストンする人が多いようだ
奥の山脈が明日向かう南岳から上河内岳の山並み

聖岳からは基本的に下りメインと思っていたが、甘かった
地図で確認すると、小屋まで2400m弱まで下った後、明日また2800mまで登り返さなければならない
上:聖平小屋への分岐
 この手前に花畑があり、カメラ片手に散策している人も多い。小屋はアクセスがよいせいか、三伏峠同様、南にしては珍しく老人や中高年夫婦、おばさんグループが大勢おり賑わっていた。水も豊富でテント場前(小屋前でもある)の水場で、「南はいいねえ、水が豊富で。北は水に苦労する」と言っているおじさんがいた。

 ところで、2,3日前より抜きつ抜かれつするほぼ同じ速度の単独若者が2人いた。平地や下りの速度は彼らのほうが速いのだが、よく休んでいるのと登りが遅いので、結局同じになる(私はあまり休まず、一定のマイペースで進む。写真撮影などでときどき立ち止まる程度で十分休みとなるので、あまり休みを必要としない)。
 塩見岳、荒川前岳、中盛丸山、小兎、兎、聖と登り手前の鞍部でよく一緒になった。そのとき先を譲るのだが、平地や下りではさっさと追い越してゆくのに、登りは「どうぞどうぞ」と先に行きたがらない。最初は向こうのほうが速いと追い立てられるようでプレッシャーだなあ、と思ったが、登りではむしろ差が開くことがわかり、安心して先に行くようになった。
 中にはものすごく足の速い人もいる。北アルプスではほとんど追い越されることはなかったのだが、今回毎日3人くらいに追い越された。中高年や団体 、カップルは逆に何人何組か追い越した。北アルプスでもそうだったが、速い人は熊鈴つけていることが多い。後ろからチリチリ音がするのでわかる。そこでタイミングを見計らって追い越してもらう。ひょっとして熊鈴は、熊除けよりも自転車のベル代わりではないか、という気がしている。



5日目 コース記録:聖平小屋5:15−南岳6:20−上河内岳6:55−8:05茶臼岳8:15−8:25茶臼小屋8:35−横窪沢小屋9:50−ウソッコ沢10:40−11:25ヤレヤレ峠11:40−沼平12:00−畑薙第一ダム13:00

 朝、コンタクトを割ってしまった。しかも割れたことに気づかず目に装着してしまうというマヌケぶり。早朝暗かったのだが、女優ミラー(LED付鏡)で確認して割れていることがわかった。取ろうとしたが、割れているせいか自力でとれない。とりあえず白目部分に乗っているので目を極端に動かさない限り痛みはなく視力にも問題ない。しかし、いつなんどき刺さるなどするかわからない。聖沢から下りることも考えたが、数時間しか変わらないし、なんか大丈夫そうでもある。というわけで、極力目を動かさないようにして予定コースを下りることにした。もう一つ問題がある。眼鏡だと度が出ないので、特に下りだと足元をちゃんと見られるか心配だ。でも仕方ない。とりあえず行ってみることにした。
 それにしても百均の女優ミラー、大助かりだ。以前山岳雑誌で、沢登りで目に刺さったトゲだかを女優ミラーで自力で抜いた話を読み、非常用品に加えていたのだ。



早朝、快調にさくさく登る。左上:南岳 頂上はハイマツが茂り、このコースにしては珍しく少々ルートのわかりにくい箇所があった。でも霧と目を動かせなかったせいで見つけにくかっただけかもしれない。
右上:上河内岳へのいい感じの尾根道



左上:上河内岳山頂と富士山 山頂にはけっこう人がいた  右上:聖岳方向
左下:ブロッケン現象が見られた   右下:これから向かう下り尾根





左上:花畑が広がる 写真を撮っていると、トレランの人が「いいところですねえ」と声をかけてきた
左下:茶臼岳を望む 鞍部が茶臼小屋への分岐   右下:茶臼岳山頂





茶臼岳山頂より  左上:東 富士山  右上:北 聖岳方向   下:南 光岳方向





左上:茶臼小屋からの下りはひたすら樹林帯。けっこう蒸し暑い。眼鏡の度数(0.4くらい)で足元がよく見えるか心配だったが、予想以上によく見えた。これなら躓く心配はなさそう。
 登ってくる人とときどきすれ違う。低い標高からの急坂で大変と思うが、親子連れなど普通のハイカーっぽい人もいる。茶臼小屋、横窪沢小屋、いずれもきれいな小屋で、お盆休みで宿泊客も多かったのか、たくさん布団を干していた。
右上:吊橋 今は登山道が整備されているが、以前は橋もなく自力で渡渉していたのだろう
ウソッコ沢小屋(左下)とその先の沢(右下) 小屋周辺の沢には、上半身裸で体を洗う男性登山者、沢遊びしている若者らなど結構人がいた。小屋脇の湧水を溜めるドラム缶には石鹸まで置いてあった。



横窪沢小屋の先とヤレヤレ峠手前が若干登りになっているのだが、これが結構きつかった。百m程度で、荒川岳や聖岳の登りに比べれば全然大したことないのだが・・・。



左上:畑薙大吊橋 中央は揺れるので結構怖い。強風だと渡る勇気ない・・・

右上:井川

左:畑薙第一ダム

下:登山道で見かけた高山植物
名前はわかりません





 帰りのバスの中で、山岳部出身仲間と思われる中高年らに若者が、大キレットに行きたいが大丈夫だろうかと尋ねていた。「南縦走できる人なら大丈夫、行けますよ」と彼ら、すごい切り立った稜線では、と若者、いやルートは完全な稜線上ではなくちょっと脇につけられている、あくまで一般ルートだからザイルだの使うところはないと言う。若者はこの前穂高に行ったら、ザイルにつながれヘルメット被った4人連れが歩いていた、ここザイルいるのかな、ずいぶん大袈裟だなあと思ったと言うと、元山岳部は「ガイド登山でしょ。最近、行っちゃいけないレベルの人も歩いているから。南アルプスを自力で縦走できる人なら大丈夫ですよ。絶対とは言わないけどね、慎重にやれば一般ルートですからね。一般ルートは整備が行き届いていますから。バリエーションだと自分で浮石かどうか見なくちゃならなかったりするけど、一般ルートならそういうのはないですから」と言った。この”あくまで一般ルートだからね”という表現は、元山岳部の知人も槍穂の間について言っていた。元山岳部系は、”一般ルートかバリエーションもしくはそれ以上か”という判断基準があるようだ。ガイドブックに紹介されているようなコースは、難易度が上級といっても”あくまで一般ルート”なのだろう。

 さて、割れたコンタクトだが、なんとか無事下山までもってくれた。この後1晩くらい大丈夫かな、明日自宅近くで目医者へ行こうかとも考えたが、やはり心配なので静岡に着いたところでまだ開いている眼科を探して電話した。ハードかソフトか聞かれ、ソフトなら明日でも大丈夫だがハードはすぐに取ったほうがよいという。閉院ぎりぎりに間に合い、割れた破片を取ってもらった。「割れた破片は鋭いでしょ。刺さったら大変ですよ。これでよく下りてきましたね。ハードをつけ慣れているからあまり痛まないのかな」と言われ、これでヘリコプター搬送というのもねえ、と言うと看護婦含め皆笑った。今回、刺さっていなかったから眼を動かさなければ痛まずにすんだが、もし破片が刺さっていたらどうなったのだろう。歩けなければやはり搬送だろうか、痛いの押して自力下山だろうか。ちなみに、いちおう掛け捨て山岳救助保険には入っている。

 山小屋談義で、北は整備されすぎ、山小屋もホテルのよう、アクセスしやすく素人が頂上まで来ると言う人がいた。確かに北アルプスは稜線もアップダウンが少なく歩きやすい。コースも今は鎖梯子階段その他で整備され、慎重に行けば素人でもXXキレットを歩くことができる。山小屋の数も収容人数も多い。北アルプスに中高年が大勢行くのはよくわかる。
 南は(北岳から農鳥岳の稜線は別として)三伏峠から塩見岳、荒川小屋周辺、聖平から聖岳、茶臼岳とダムの間以外は、あまり人がおらず、特に女性が少ない。北ア定番の中高年夫婦や中高年の団体も、上記の箇所以外見なかった。また、最近北や中央アルプスに多いという韓国人もいない。後立山では山頂の道標が日本語英語ハングル併記だったが、南は大抵日本語のみ。南も森林限界超えた景色を楽しめるが、アクセスの悪さとやたら体力を使うところが敬遠されているのかもしれない。
 とにかく南アルプスはアップダウンが激しく体力的にきつい。一度行けばもう十分、と歩き終えた直後つくづく思った(が、農鳥岳南のマイナー尾根縦走を考え始めている)。

 北アルプスや八ヶ岳でも感じたが、おもに登山者しか登らない山のメジャールートは、道は明瞭道標もしっかりしており、道迷い遭難の危険は(雪山でない限り)ありえないと思う。植林地やかつて炭焼き焼畑を行っていた2000mくらいまでの山は、作業道古道あり獣道ありで、さらにマイナーな山の場合道も踏み跡、このため地図片手に現在地確認が欠かせない。一方、森林限界を超える山は古来作業対象でないし獣もいないので獣道もない。尾根はすっかり見渡せ、ひたすら尾根道を歩けばいいだけ、ほとんど地図を見る必要もなかった。岩場に神経使ったり、天候急変時(特に雷雨)の怖さは低山の比ではないが、天候がよければあまり緊張せず歩くことができる。踏み跡の山歩きは、もっと常に緊張している。
 ただ、高山の踏み跡は道間違えたら相当やばいので、難易度高いだろう。また、この話をかつて山をやっていた人にしたところ、「登山道しかないような山は確かにわかりやすいが、道を新しく付け替えたとき古い道が残っていると危ないんだよね。たいてい塞いであるが、うっかり入っちゃうと迷ったりする。この前の中央アルプスの韓国人の大量遭難もルートはずれてたというから、あそこもわかりやすいはずだが、何かの理由ではずしたのだろう」と言っていた。やはり安易に考えてはいけないようだ。



hidari.gif 南ア縦走前半白峰南嶺 migi.gif


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